専門家インタビュー
火葬場建築における告別の場に関する考察と提案について
更新日:2024.07.22 公開日:2024.07.22
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研究内容について
Q1.「火葬場建築における告別の場に関する考察と提案」の研究を始めたきっかけは何ですか?
1989年からスウェーデンの大学院に留学して、建築家グンナール・アスプルンドの研究を行いました。
アスプルンドは、1915年の墓地の設計コンペで勝ちメジャーデビューを果たしてから、1940年の「森の火葬場」まで、生涯を通して墓地や火葬場を設計し続けるという稀有な建築家人生を歩みました。
それ以外にも図書館や住宅などの傑作がありますが、なんといってもユネスコの世界遺産に登録された、彼の最後の作品である「森の火葬場」が、その到達点の高さにおいて特別な価値があります。
こうしてアスプルンド研究をきっかけに、火葬場の建築計画について意見を求められる機会がありました。
また、最近は火葬場や墓地のあり方に興味を持つ若者が増えてきたようで、学生の設計作品を指導しながら、この問題を自分なりに考える機会が何度もありました。
もう一つ、ごく個人的な話ですが、僕は21歳のときに母を交通事故で突然失くしました。
これが原体験かもしれません。
アスプルンドのすばらしい作品を見たあとで、できればこんな配慮に満ちた火葬場で母を見送りたかったと考えるようになりました。
Q2.研究対象である、告別の場とは何ですか?
亡くなった状況や故人の価値観にもよりますが、日本ではお通夜から葬儀まで遺族は忙しく対応することが多いと思います。
葬儀が終わり、遺族が火葬場に移動すると、いよいよ亡くなった人との最後のお別れをしなければなりません。
この故人との最後のお別れの瞬間が最も辛く、建築がお別れにふさわしい場をいかに用意してあげるかが問われると思うのです。
それは火葬場の敷地に入るところから始まり、建物に入ってからの動線や火葬を待つ待合室までのすべてともいえますが、やはり最も大切なのは今生の別れを告げる炉前ホールということになります。
その空間もさることながら、どんな時間を最後に故人と共有できるかこそが、告別の場で問われるべきだと思います。
Q3.「火葬場建築における告別の場に関する考察と提案」の研究成果を教えてください。
どの火葬施設であっても、遺族同士の動線が交わったり、炉前でうかつに顔を合わせたりしないような配慮がされていると思います。
ただし、複数の炉に対して大きな炉前ホールが用意されているところでは、どうしてもお別れの目的に対して場の面積や天井高が大きすぎるということが起こります。
限られた最後の時間に、できるだけ故人との親密な時間を用意してあげられる適切な規模にすること、建築自体が遺族のお別れの時間にそっと寄り添い、自己主張を控える引き算の美学で構成されることなどが重要だと思います。
それと日本では、棺を炉に収めた後で、エレベータのドアのようなステンレスの扉が閉まるのも大いに違和感を覚えるところです。
アスプルンドの設計した礼拝堂では、故人に花を手向けて遺族が別れを告げると、遺族が退室した後でリフトがそっと地下に降りて火葬されます。
顔を見ながら故人を見送ったのが最後の記憶になります。
一方で、ステンレスのドアの向こうに消える故人を見送ることは、いずれは自分がその立場になるという運命を眼前に突きつけられることにほかなりません。
21歳の僕にとっても、それはあまりに残酷な出来事でした。
Q4.川島様が考える本研究の意義を教えてください。
アスプルンドは、最後の「森の火葬場」の設計において、数え切れないほどのスケッチを描きながら熟慮を重ね、とうとう最後の結論として、葬儀を行う礼拝堂の建物を道から見えない位置まで下げて、さらに並木で隠しました。
自分の作品を見せることよりも、背後の森に向かって延びる道を生み出し、そこを歩く時間をいつかはあの森に還っていくという、この世の摂理を悟るための時間としました。
限られた人生の時間が尽きた後は、森の永遠なる時間に抱かれて眠ることを示唆することで、傷ついた心の救済までを用意したように思います。
1940年の段階で、こんなところまで考えられた人を他に知りません。
20世紀では建築に限らず、人間の能力を過信していた部分が大きかったと思います。
21世紀に入った現代になってようやく、私たちは環境との共生や持続可能な社会を築くことを目指し、自然の存在が人間よりずっと偉大だと考えるようになりました。
お墓に入るより、樹木葬や海への散骨を希望する人も増えてきました。
僕の研究は、あくまでもアスプルンドが考えたであろうことを言語化しているだけですが、現代にふさわしい葬儀や墓地のあり方を考える一つのきっかけになればうれしいです。
Q5.川島様の研究における最終的な目標を教えてください。
現在は、建築やデザインだけでなく、現代人のライフスタイルと時間概念との関係に興味をもっています。
今年になって、だいぶ全体像が見えてきましたので、そろそろ本や論文にまとめて発表したいと思います。
時間に注目する理由は、私たち生物にとって時間とは生命そのものを意味するからです。
ここから新しい建築やデザインを生み出す現代的な方法論を見つけていきたいですし、それを応用した作品をつくってみたいです。それが僕にとっての終活になる気がします。
先生の経歴について
Q1.先生の略歴を教えてください。(5つまで)
千葉大学工学部建築学科卒業
スウェーデン国立ルンド大学大学院博士課程(スウェーデン政府奨学金留学生)
京都工芸繊維大学大学院博士後期課程修了
日本学術振興会 特別研究員PD
川島洋一建築研究所代表
Q2.先生の資格・学会・役職を教えてください。(5つまで)
博士(学術)
日本建築学会、日本デザイン学会、意匠学会、環境芸術学会などの正会員
福井工業大学環境学部デザイン学科 主任教授
福井工業大学 地域連携研究推進センター長
先生の所属先
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