専門家インタビュー
霊魂観念と墓参・お供え:大切な人と死別した遺族を対象とする調査について
更新日:2024.10.05 公開日:2024.10.05
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研究内容について
Q1.研究対象である、「霊魂観念」とはどのような内容ですか?
「霊魂」とは、亡くなった人の生前の人格・意識・好みなどを宿した存在で、いわば「肉体のない故人その人」と定義することができます。
人びとは霊魂の存在を受け入れて、霊魂に対してある一定のイメージを共有しています。たとえば、遺族が何かをしたら故人(霊魂)が喜ぶ、あるいは悲しむとか、自分たちを見守り支えてくれているなどのイメージです。私の場合、こうした霊魂という存在の受容、および社会的に共有された特定のイメージを霊魂観念と呼んでいます。
Q2.「霊魂観念と墓参・お供え」の研究を始めたきっかけは何ですか?
以前から、死亡事件の犯罪被害者遺族が抱く司法への要望とその実態を研究してきました。
霊魂観念を研究するきっかけのひとつは、ご遺族とのやりとりの中で、ある日突然に生命を絶たれた子どもや家族といつか再会できる、だから悲嘆と苦難に満ちた自身の残りの人生をできるかぎり意味あるものにしなければ、というご遺族の思いに触れたことでした(この辺りは『宗教が拓く心理学の新たな世界』という書籍で詳述しています)。
霊魂観念に注目したもうひとつのきっかけも、やはり犯罪被害者ご遺族でした。
何の心の準備もない状態で子どもや家族を奪われて、死をまだ現実のことと認識していない状態でご遺体に司法解剖が行われたご遺族の中には、長年被害者への申し訳なさと、苦痛と後悔に苛まれている人がいます。そこから「愛する人の遺体はなぜ大切なのか」という問いが立ち上がり,「そこに霊魂が宿るから」という仮説が生まれました。
詳細は「死因究明における死亡時画像診断(Ai)の意義」という論文をご参照ください。
Q3.研究成果と意義を教えてください。
われわれ現代人は、霊魂とかご先祖様といった不可視の存在を信じなくなった、霊魂観念は希薄化したと指摘する民俗学者や人類学者がいます。確かに、自分の死後、みずからの霊魂がなお存続することを「信じる」と明言する人は少なくなっているかもしれません。
しかし、大切な人と死別したとき「故人(霊魂)は消滅した、いっさいは無になった」と考える人はどれほどいるでしょうか。ジャンケレヴィッチという哲学者は、前者を「一人称(自分)の死」、後者を「二人称(大切な人)の死」と呼んで区別しています。
私はこのうち二人称の死に着目して一連の研究を行い、霊魂観念を核とする大切な人の死後のイメージ、死後世界観の構造をまず明らかにしました。霊魂は生者とともにある、良きあの世で安らいでいる、生まれ変わっている、思い出や業績に残る、などです。こうした死後のイメージが、遺体の解剖や臓器の提供に対する遺族の賛否と関連していることが明らかになりました(論文「遺族の死後世界観と解剖や臓器提供に対する態度」)。
また、霊魂観念を肯定する遺族ほど、故人は供養を必要としていると考えて頻繁にお墓参りやお供えしていることが確認されました(論文「霊魂観念と墓参・お供え」)。
つまり、少なくとも二人称(大切な人)の死に限っていえば、現代の人びとは自覚していようとしていまいと、なお霊魂観念につき動かされて行動していることが明らかになったわけです。
私たちはなぜ愛する人の遺体に愛着を寄せ、また弔いを手厚く行うのかという問いに対して「大切な人の霊魂についての観念やイメージを抱いているから」という答えを実証的に示したことが一連の研究の成果だと言えるでしょう。
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今後の目標について
Q4.白岩先生の研究における最終的な研究目標を教えてください。
当面は、葬送の選択と霊魂観念や死後世界観の関連の検討に取り組みます。
昨今増えつつある自然葬はなぜ好まれているのでしょうか。本人や遺族が自然葬に寄せるポジティブな態度は、維持負担の懸念や経済的理由だけでなく、霊魂観念を含む死後世界イメージが影響している、というのが現在の仮説です。
最終的には、大切な人の遺体に対する遺族の愛着とその要因を、日本を含むいくつかの国で文化比較する予定です。これによって、たとえば臓器提供率や遺体の解剖率、また災害・事故の犠牲者のご遺体や戦没者のご遺骨の収容に対するスタンスが国によって異なること、またその要因を特定することが目標です。
これらの異なる複数の主題に一貫して「霊魂観念」が関わっていることが示せたらと考えています。
先生の経歴について
Q1.先生の略歴を教えてください。
株式会社リクルートに勤務後、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程などを修了。
東京大学大学総合教育研究センター特任助教、東京大学大学院人文社会系研究科講師を経て現職。
Q2.先生の資格・学会・役職を教えてください。
社会心理学(博士)、被害者学(修士)、心理学(修士)
宗教/スピリチュアリティ心理学研究(副編集委員長)
日本社会心理学会(学会活動委員)
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先生の所属先
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