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先取特権と葬式費用

更新日:2024.10.02 公開日:2024.10.02

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研究内容について

Q1.「先取特権と葬式費用」の研究を始めたきっかけは何ですか?

大学で以前から社会人向けの終活講座やエンディングノートの書き方講座などを行っていたのですが、この論文を書くきかっけとなったのは、論文の冒頭にも書いていますが、「誰にも引き取られない遺体」の存在を明らかした、NHK 「無縁社会プロジェクト」 です。

年間3万2千人もの人々が 「無縁死」されているということでした。この無縁死の背景には単身世帯の増加が一因となっているとされていますが、 法律上においては、 必ずしも無縁なわけではなく、 「親族」がいる場合もあるということでした。

行旅病人及行旅死亡人取扱法という法律では、 無縁死した者の 「取扱費用」 はその人の相続財産 (遺留品)から支弁されるとし、 これが不足する場合には、 相続人の負担とし、 さらに相続人から弁償を得られないときには、 扶養義務者の負担となると規定しています。

少子高齢社会では、このような無縁死する人は益々増えていくのではないかと危惧されます。民法上は、 誰が埋葬義務を負い、 葬式費用を負担するかという規定はありません。


民法では唯一、309条が葬式費用の先取特権について規定しています。これまで309条に関する裁判例は公刊されていませんでしたが、 平成21年に、東京高裁平成21年10月20日決定が出されました。

この平成21年決定をもとに、 309条の立法趣旨を辿りながら、なぜ葬式費用が先取特権の対象とされたのか、 その存在意義について検討するとともに、現行法の意義や限界について考えてみたいと思いました。

死は財産の有る無しにかかわらず、訪れるものです。しかも、多くの場合、本人が予見することなく死は突然にやって来ます。家族や親族がいる場合であっても遠方にいる場合には、死者の弔いを行い得ない状況もあります。

無縁社会においては、遠方の親族よりも近くの知り合い・友人に葬儀一式を委ねることができれば安心といえます。これを担保するための法制度が整備されていく必要があると考えました。

Q2.研究対象である、先取特権とは何ですか?

民法で定められた特定の債権を有する債権者は他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受けることができます。この権利を先取特権といいます。例えば、従業員の人が給与未払いで会社に対して債権を有する場合に、他の債権者よりも優先して給与債権の弁済を受けることができます。

民法は、共益の費用、雇用関係、葬式の費用、日用品の供給よって生じた債権については、先取特権が生じるとしています(民法306条)。葬式の費用については、民法309条が「葬式の費用の先取特権は、債務者のためにされた葬式の費用のうち相当な額について存在する。」と規定しています。

この場合の債務者とは、亡くなった人を指すとされ、葬儀社などが死者のために支出した葬式費用を遺産から優先的に弁済を受けることができるようにしたとされます。葬式費用を先取特権にしたのは、死者のために相応の葬式が行われることを容易にするためと説明されています。


Q3.本研究の研究成果を教えてください。


わが国では、誰が死者を埋葬するかということは、かつての家制度のもとでは戸主が、当然担う義務と理解されてきました。しかし、家制度がなくなった現在、誰が亡くなった人を埋葬するのかということは、すなわち埋葬の義務というのは、明文上規定がなく、非常に曖昧なものとなっています。裁判例等では、喪主負担説が有力です。喪主として葬儀を執り行った人がその費用を負担するというものです。


この説は、喪主が自発的に喪主になる(葬儀の契約主体)ということが前提とされています。多くの場合、亡くなった人の配偶者や子どもが喪主となるか、そのような近親者がいない場合には、その兄弟姉妹が喪主となるものと思われます。そして、彼らは、実際上は、相続人であり、葬儀費用を相続財産から相殺することもできるのでこれまではさほど問題になってこなかったと想定されます。

今後も、このような慣習は残っていくものと思われますが、これはあくまでも任意の行為の上に成り立っています。このような自発的な行為が望めなくなると、喪主のいない「無縁社会」につながっていくことになります。

アメリカ法では、法律上埋葬義務者が決められていますが、埋葬費用の負担は相続財産から支出されるとして、埋葬義務者と費用負担とが明確に分けられています。アメリカでは伝統的に遺体を埋葬する義務は、 遺言執行者、 生存配偶者、 最近親者、 同一の屋根にいる者に順次課されます。

アメリカでは古くから「相続財産を有しない貧民が死亡した場合、 その遺体が横たわる建物の住人が遺体を運び、 礼節をもって遺体を埋葬する義務がある」 とされています(同じ屋根ルールとも呼ばれます)。日本でも埋葬義務の議論をする時期に来ていると思われます。


そしてわが国において葬儀をめぐるもう1つの問題が葬儀と埋葬が分離されているということです。葬儀費用の範囲についてはわが国では明確にされていませんが、喪主は葬儀を行ってその役割を終えるものと考えられています。

民法は、系譜、祭具及び墳墓などの祭祀用財産の所有権は、通常の相続財産とは別に、祭祀承継者が承継すると定めています(897条)。すなわち、先祖代々の墓を守るのが祭祀承継者です。


これまでは、喪主と祭祀承継者が戸主という同一人物であったため、問題は生じてきませんでしたが、現代社会では、これが必ずしも一致するとは限りません。


喪主と祭祀承継者が異なると、葬儀は行われたが、祭祀承継者の反対で、遺骨の行き場がなくなってしまうことが生じます。これまでの喪主負担説の立場では、葬儀費用には埋葬費用は含まれてきませんでした。

しかし、死者の立場からすれば、葬儀という儀式のみならず、適切に埋葬されることが重要とされるわけで、葬儀だけ済ませせれば終わりというのであれば、余りにも無責任ということになります。その意味では、葬式費用は埋葬の費用までも含めて考える必要があるといえます。


これまでは、家制度のもと、「家」の墓に入るということが前提になっていましたが、無縁墓が増えてきていることに象徴されるように、家墓を維持することも難しくなってきています。このような現状のもと、葬式費用と埋葬費用を明確に切り分けていくことにも限界があるといえます。アメリカ法では、葬儀と埋葬は一連のプロセスであり、埋葬費用も葬儀費用の中に含まれています。

本研究では、生活スタイルや家族関係が変化していく中で、無縁社会や無縁墓といった超高齢社会の抱える深刻な問題に対処するにあたり、現行法がもつ家制度の残滓を明らかにするとともに、埋葬をめぐる法概念の転換の必要性を述べました。


Q4.石堂様が考える本研究の意義を教えてください。


本研究では、日本において誰が葬儀費用を負担すべきか、またその費用の範囲についても明確になっていないことの問題点を明らかにしました。そして、アメリカ法の動向を参考にしながら、今後のわが国の超高齢社会における埋葬義務者の明確化の必要性について述べました。

わが国の民法では、死者の財産に関する規定はあるのですが、死者の身体の処置に関する規定はありません。遺言の自由が認められているように、自己の身体の処置についても本人の意思が認められるべきではないでしょうか。


そして、その後の研究として「死後事務委任契約についての一考察」(中京大学社会科学研究33巻1号)を記しました。そこでは、本人の死後委任を認めた最高裁平成4年判決を題材に、本人死亡後の葬儀や埋葬に関する本人の意思の尊重を認めるアメリカ法の動向を考察しました。


アメリカ法では、埋葬に関する本人の意思表示が法律上優先されることが明記されています。その意思表示の方法についても遺言に限ることなく、宣誓書、委任状、プレニード契約、代理書面など多様な方法が認められています。また、代理人については、実際は、家族の中から指名されている場合が多いのでしょうが、本人の意向を確実に実現するために本人死亡後の代理人制度が認められています。


わが国において、今後、家族以外の人に自己の葬儀・埋葬を委ねる人は増えてくるものと思われます。また、本人の意思が表明されたとしても遺族が反対するような場合、どちらが優先するのか明確な規定はありません。


これまでは自発的行為として喪主による葬儀に任せてきましたが、葬儀・埋葬を確実に実現するためにも、本人の意思を実現するための法制度が求められているといえます。


Q5.石堂様の研究における最終的な目標を教えてください。


日本社会はこれまでに経験したことない、超高齢社会を迎えようとしています。その中で、単身の高齢者世帯の増加など家族の形態も大きく変わろうとしています。2024年には、65歳以上の孤独死が6万8000人になるとの推計も出されています。

また、無縁墓の増加などこれまで、家族が担ってきたセイフティネットが大きく崩れようとしてきています。「終活」という言葉が示すように、我々は、自己の死亡後のことまで考えていかなくてはらない時代と言えます。


自己の財産の処分に関しては「遺言の自由」が認められていますが、自分の身体の処置及び埋葬については、本人の自由が必ずしも保障されているわけではありません。亡くなる人にとっては、自分の遺産の行方よりも、むしろ、自己の亡骸がどのように扱われていくかということの方が重要なのではないでしょうか。

死者の安寧を保障するためにはどのような法制度が望ましいのか諸外国の事例などを参照しつつ、展望したいと思います。

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先生の経歴について

Q1.先生の略歴を教えてください。(5つまで)


東京農業大学生物産業学部講師(民法、商法、産業法担当)(~平成19年3月)
香川大学大学院香川大学・愛媛大学連合法務研究科准教授
香川大学大学院香川大学・愛媛大学連合法務研究科教授(~平成22年3月)
中京大学法務研究科教授(~平成30年3月)
中京大学スポーツ科学部教授(現在に至る)


Q2.先生の資格・学会・役職を教えてください。(5つまで)


日本スポーツ法学会理事、日本体育・スポーツ政策学会理事、全国公益法人協会会員、日本内部監査協会会員(内部監査士)、名古屋市教育委員会 生涯学習eネットなごや 講師「終活のハジメ」担当(平成26年)

先生の所属先

中京大学

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